第9回【森の中のメチャ混みカフェ】 真相は森の中?
なんだかすっきりしない天気が続く、9月。
この日は久々に晴れ、残暑と呼ぶのがピッタリな気候だった。
9回目の夫婦カフェ巡りは、森の中の、大きなテラス席が素敵な、あのカフェに行ってみようと家を出た。10年近く前に一度だけお邪魔したことのあるカフェだ。
行ってみようと思いたったのは、夏が終わり、テラス席でも虫が気にならないのではないかと思ったからだ。夫婦して虫が苦手なのだ。それに今時期の木立ちの中は暑くも寒くもない、ちょうどいい風が吹いているに違いない。森の中のカフェで心地よい風に吹かれる自分が、もう見える。
ところがだ。
あいにくのお休み。“本日休業”ではなさそうだ。長い休みか、あるいは閉店されたか、という雰囲気が、近寄らずとも漂っていた。
残念だけど、仕方ない。もう少し森の奥のカフェに行き先を変更した。
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車を降りると、ひんやりした秋の空気。街の中とは温度も湿度もまったく違う。
お店に入ると、客は他になく、一番眺めがいいという特等席に案内された。
窓の外に見えるのは、木々とせせらぎのみ。
店内に音楽はなく、川の流れる音だけが聞こえていた。
ここはこちらもシンプルに、コーヒーだけを。
風は吹かないけれど、せせらぎの音を聞きながら木々を眺め、静かにコーヒーを楽しむ…はずだった。
が、次々と訪れるお客。コーヒーが運ばれてくるころには満席になり、あきらめてお店を後にする人も出始めた。
あちらのカフェの休業の影響があるのは明らかだった。
店の中の人々はそれぞれに、配慮のあるボリュームで会話をしていたが、席が比較的近いため互いの存在が気にかかる。
まるで列車の旅のようだ。
四人が向かい合うボックス席が並んだ、あの感じの列車。
別々のグループなんだけど通路を挟んでいるだけだから、なんとなく互いの会話も聞こえるし、不意に目が合ってしまい気まずかったりする、あれ。
そんな感じだから、オットと話すときも極力小さな声で。でもよく聞こえない…。もともと意思疎通が上手くない2人なのに、これでは会話にならず。
窓の外の小さなテラスは店内に入れなかった人たちの客席となり、景色に目を向けるのもはばかられる。
“特等席”で縮こまるワタシたち。
コーヒーを飲み干すと、早々にお店を後にした。
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なんだか消化不良の今回のカフェ。
それはオットも同じらしく、帰り道、「なんでだろうねえ」という話になった。
時間帯によって満席になることはあるだろうし、お店に落ち度があったわけではない。
コーヒーは美味しく、ロケーションは抜群、マスターも親切だった。
ワタシ達のコンディション(?)も悪くなかった。
でもしっくりこない。ごくたまに、そんな回がある。
なぜだろう?
今日 思い描いていたカフェタイム(静かな森で風に吹かれる)とのギャップ?
そもそも第1希望のお店じゃなかったから?
それとも滞在時間が短かった?
「混んでいたし、それぞれの席が近かったからじゃなかろうか。」
ワタシの意見だ。
人の気配はあってもいいんだけど、気配が生々しくてもくつろげない。混んでいたとしてもお互い視線が合わず、聞こえないほどに声を潜めなくてもいいよう、席の配置に工夫が必要なんじゃないか、カフェっていうところは。というようなことを真剣に述べた。
「うーん…よくなかったのは…マスターのシャツだな」とオット。
「は?」
マスターは山で一定年齢以上の男性が着ていそうな、チェック柄のシャツをお召しだった。
「普段着すぎたよ。マスターっぽい衣装だったらよかったんじゃない?せめてエプロンするとか。」
何を言ってるんだと思いながらも、流れる窓の外の景色を眺めていると、あながち的外れでもない気がしてきた。
休日のお父さんがコーヒー淹れてくれた感じになっちゃったのかなあ?(本格コーヒーでとても美味しいんだけど、雰囲気が)
カフェでちょっとした非日常と特別感を味わいたいのは確かだ。
カフェで30分過ごすだけで、少し元気になれるのはどうしてだろう?
なぜわざわざお金を払って、コーヒーを飲みに出かけるのだろう?
ワタシがカフェに求めているものって、何なんだろう?
このところ、そんなことを少し考え始めていたので、「しっくりこない」わけをいろいろ考えてはみたものの、結局モヤモヤはモヤモヤのままだった。
まだまだ“カフェ道”1年生。
わかったフリをしないことだ。
マスターには悪いけど、とりあえずシャツのせいにさせてもらって…真相は森の中に、しばらくしまっておこう。