メオトカフェ

中年倦怠期夫婦の「カフェ道」

第8回 【ショールームの片隅のカフェ】 ハーブティーはいかが?

8回目のメオトカフェ。

 

8月、2人で出かけられそうな日はこの日の午後しかなかった。 

あいにくの雨。

カフェを選ぶにあたって、「歩き」と「眺望」は消えた。

街はお盆休みの人たちで、3年ぶりの賑わいがまだ収まっていない。

コロナ第7波の真っただ中、「街なか」も消えた。

 

行き先も決まらないまま、車に乗って家を出る。

オットはいつものノープラン。

ノープランで困っても、止まって調べるということをしない人なのだ。車は走り続ける。

 

「どこか当てがあるの?」

「ないけど。なんとなく」

 

車は市街地から外れていくルートに入っていた。

このルートだと、候補はより少なくなる。

いったいどうするつもりなのだ(どうするつもりもないに違いないけど)。

 

その時、とあるショールームの横を通過した。

 

「あ、そういえば」

思い出した。

「あのショールームの中に、確かカフェスペースがあった気がする」

「そうなの?」

「でもショールームの人がやってるんだろうからね。本業じゃないから、たいしたものはないかもしれないね」

 

さあ、どこ行こうか?感染は心配だけど街に戻る?と車は大きく旋回し、街の方へ向かい始めた。

 

左へ行けば街、右は郊外、という岐路に来て叫んだ。

「やっぱり、さっきのとこ、行ってみよう!」

 

オットは慌てて右にハンドルを切り、さっき通り過ぎたショールームに進路を定めた。

 

カフェには期待できないかもしれないけれど、ショールームに用のない人は来ないからすいているだろうと踏んだのだ。

それに、ワタシたちもお店をのぞいたことがなかったので、暇つぶし…いやいやデート気分で見学もいいかもしれない。

 

 

傘をたたんで、中に入った。

大きな空間の片隅に、カフェスペースがあった。なるほど、ここね。確認して、先に店内を見て回った。思えば食材や日用品以外のものを二人で見て回ることなど、あまりない。

ワタシ達には手が届かないものばかりだったけれど、いいのだ。侘しくはない。ワタシ達はショールームのお客ではなく(見るだけ見せてはいただいたけど)、カフェを訪ねてきたのだから。目の保養をし、世の中にはこんなに素敵なものがあるんだと感心しながら、それらに囲まれて心豊かにお茶をするのだ。

何も購入してはいないけれど、堂々たる心持ちで、カフェスペースへと赴いた。

 

少し肌寒かったが、あいにくカフェオレはアイスしかない模様。「片隅のカフェスペースだから」それも仕方なし、と席に着き、渡されたメニューを広げた。

 

オットは“特製ブレンド”のホットコーヒーで即決。

ワタシはアイスカフェオレのつもりだったけど…ん?

 

普段はあまり気に留めない、“ハーブティー”に目が止まった。

ブルーベリーテイストらしいそのお茶には「全米紅茶チャンピオン1位」と注釈が書いてある。

「これは、紅茶ですか?」と店員さんに訪ねると、「これは紅茶ではありません。ハーブティーです」とのこと。

ですよね…ハーブティーの欄に書いてありますもの。

 

紅茶じゃないのに、紅茶チャンピオン1位とはどういうことなのか…

 

それはさておき、メニューを決めるのだ。

ハーブティーはあまり飲んだことがなく、クセがあるように感じて、なんとなく苦手な印象しか持っていない。“とにかく1位”の称号を信じてチャレンジするか、無難なアイスカフェオレか…

 

最近、新しいもの(自分の中で)への小さな挑戦を重ねて調子づいているワタシは、迷った末に“全米紅茶チャンピオン1位を取ったことのある、ブルーベリーメルローというハーブティー”を注文した。桃のタルトとともに。

もう何が出てくるのか、ほとんどわかっていない。

 

だが、運ばれてきたそれを見て、心が躍った。

なんて素敵なの。ティーバッグとポットのかわいらしさよ。赤いお茶がまた、美しい。

「砂時計の砂が落ちたら飲み頃です。」と言って店員さんは去って行った。

 

 

外は雨。

ふいに訪れた、砂時計を見つめて静かにお茶を待つだけの時間。

 

砂が落ち、ワタシのためだけのその時間は、瞬く間に終わった。

 

 

さあ、いただこう。

 

ベリーの香りに包まれながら、甘みと酸味が程よく感じられる、その赤いお茶を楽しんだ。

初心者にも飲みやすい風味で、とっても美味しい。これが全米チャンピオンの味なのか…。

体に優しい焼き菓子屋さんから仕入れているらしい、桃のタルトとも相性がよかった。

 

ポットのお茶は、カップに2杯半ほどあり、オットにも少しお裾分けしながら、ほとんど貸し切りのカフェスペースで、ハーブティーを楽しんだ。

「オレって凄くない?行き当たりばったりでこんなとこ見つけて」

上機嫌なワタシに、なぜか鼻高々のオット。

いきさつからしてオットの功績では全くないとは思うけれど、まあそんなことはどうでもいい。いつものことだ。

同じ時間を過ごし、「今日はよかったね」と言えることが大切だ。

 

素敵なティーセットの魔法なのか、ハーブの効能なのか、雨降りとは思えないすっきりした気分で、ワタシ達はお店を後にしたのだった。

そしてその気分の良さは、夜まで続いた。

 

ハーブティーも今後はアリだな。

 

今まで完全に“食わず(飲まず)嫌い“だった。

ハーブティーがこんなに美味しくて、こんなに穏やかに、心と体を包んでくれるなんて。

知らなかったなあ…

 

偶然入った田舎のショールームの片隅での、電撃的な出会い。

 

いや、これまでだってハーブに出会ってはいたのだが、タイミングが“その時”ではなかったのだろう。

若い時とはまた違う、心や身体の傷みを感じる年頃になって、ことさらにハーブエキスが沁みるのかもしれなかった。

 

ワタシ達夫婦だって、出会いのタイミングがずれていたら、結婚していたかどうかわからない。

 

いま出会えたから、フィットしたのだ。

 

 

素敵なカフェを見つけてしまった。

 

またお茶だけ飲みに行っても、いいのかなあ?

 

すぐに接客できる臨戦態勢で店内に目を配る、ショールームの従業員の皆さんの姿を思い浮かべると、少々勇気がいりそうだわ、と思いながら…ワタシはいつの間にか眠りに落ちていた。

 



 

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持ち手がリーフになっている、かわいらしいティーバッグはこちらのもの。

世界のラグジュアリ―ホテル等で愛用されているとか…

特別な時間を過ごしたい時や、フォーマルギフト等に。