【ひとりごはん】 パンと、噛みしめる幸せ
オットは仕事、子供は学校、の とある平日休み。
お昼はパンにしたかった。
それも、ちょっといいヤツ。
あのお店の。
パン一つがスーパーの食パン約二斤分はするから、家族みんなでお腹いっぱい食べるわけにはいかない。
食べたかったら、「一人こっそり」いただくしかないのだ。
ごめんよ、みんな。
このタイミングが来るのを妻は、母は、密かに楽しみに待っていた。
さあ、出陣だ!
このパン屋さんはお洒落な洋服屋さんか雑貨屋さんのような店構えで、庶民の主婦には何となく入りづらい雰囲気もあり、気になりつつも店の前を通過すること一年、二年…
小心者なワタシも、この頃ようやくお客になれたのだ。
お店の外観・内装はもちろん、レジのお姉さんもパン職人さんも、みんなオシャレにみえる。
パリのパン屋さんに入ったみたいだ(行ったことないけど、たぶんこんな感じのはずだ)。
この小さな空間に入り込んだ自分さえ、ちょっと素敵なマダムの気分になる。
迷いに迷って、パン二つを買い、ひとりの家に戻る。
カフェオレを淹れて…さあ、いただきます!
トマトの酸味とチーズがよく合って、おいしい。
ハード系のパンは固いけど、小麦の味が感じられて好きだ。
どんなに具材がトッピングされていても、土台であり主役であるのは「この、わたしです」という静かな主張がある。
おいしいなあ…
平日昼のささやかな幸せ。
それにしても固い。顎がだるくなる。財布とお腹に余裕があったとしても二つが限界だ。
おばあちゃんになったら、さすがに無理かな。
小麦も高くなり、いくら「こっそり」でも、そのうちパンなど口にできなくなったりするのかもしれない。
パン屋さんにパンが並ぶ。
食べたいパンを買って食べる。
給食にパンが出る。
子供たちみんなにいきわたる。
この頃の世界情勢や、自分の老化、早すぎる梅雨明けに、それらが「当たり前」ではなくなる日が来るかもしれない気配を感じながら…パンを噛みしめる。