メオトカフェ

中年倦怠期夫婦の「カフェ道」

第11回 【裏通りの本格カフェ】ありのままのワタシたちで

11回目のメオトカフェ。

今回は街の図書館の近くの、小さなカフェを訪れた。

 

図書館近辺にはいくつかのカフェがある。表通りに面したカフェの窓辺の席で、コーヒーを飲んでいる人たちを行き帰りにチラッと見ては、いつか私も…と思っていた。図書館で借りた本を読みながらコーヒーをいただくなんて、素敵な休日にもほどがある。

憧れてはいたものの、なかなか叶わないでいた。図書館には用事の途中で立ち寄ることが多かったし、本を借りた(返した)安堵感からか、うっかり駐車場を出てしまうことがほとんどだった。カフェには駐車場がなさそうな気配。行くのなら、図書館の駐車場(兼公営駐車場)に車を止めたまま、歩いていくのがよさげなのだ。

 

そんな風に心の段取りだけは万全だった表通りのカフェではなく、今回お邪魔したのは裏通りの、そのまた裏通りの路地に静かに佇む、小さなカフェである。「なんでなの!」と自分でも突っ込みたくなる。

こんなところにカフェがあるとは知らなかった。裏通りの裏通り、通りかかることは皆無の場所だったが、知ってしまったのだから仕方ない。

 

小さなカフェに入るのは、少々緊張する。しかも自家焙煎が売りのお店。狭い空間、何かに紛れることもできず、店主にも、他のお客にも、自分の品定めをされるような気分になるからだ。「ちゃんとした客であらねば」というような不要な気合いが、さらに敷居を高くする。

 

店に入れば案の定、窓辺にはワタシ達より一回りくらい若い、こなれた男性客がひとり。

ほらほら、様になってるもん。コーヒー知ってます感、出てるもん。

昔(ワタシ達が若い頃)、この街ではこんな風にカフェの窓辺で、一人ただゆっくりとコーヒーを楽しんでいる若い男性は、そう見かけなかった。

 

奥にはオーナーと知り合いらしい、女性客がひとり。オーナーと会話しながら、時間を潰しているらしかった。

ほらほら、様になってるもん。この店いつも来てます感、出てるもん。

昔(ワタシ達が若い頃)、この街ではこんな風にひとりやってきたカフェで、オーナーと会話しながら時間を過ごす女性は、そう見かけなかった。

 

ワタシ達より少し後にはリュックを背負った、学生風情の若い男子が入店。「カフェ巡りをしているんです」と、きっとどこか遠くからやってきた青年は、嬉しそうにオーナーに微笑んだ。

ほらほら、様になってるもん。イマドキ男子感、出てるもん。

昔(ワタシ達が若い頃)、この街ではこんな風に「カフェ巡り」なる旅をする青年は、そう見かけなかった。

 

さて、中央の一番大きなテーブル席には、ワタシ達二人。

カフェの達人達に、ワタシ達はどう映っているのだろう?

初心者とはいえ、11回目ですからね。こなれ感、出ちゃってますか?

 

ワタシは定番のカフェラテを。

オットはドリップコーヒー。

バリスタに「深煎りにしますか?浅煎りにしますか?」と尋ねられ「はい?」と聞き返すオット。同じ質問をされ、「ああ、フカイリで」と答えると、「かしこまりました」とバリスタは作業に取り掛かった。

オット、絶対わかってないな…苦いの苦手なのに、なぜ深煎りを?

わからない時は「苦いのは苦手なんですが、どんなのがお勧めですか?」などと聞けばいいと思うけど…このこなれ感たっぷりの店内では、知ったかぶりも無理からぬことかもしれない。

ハッタリ、見破られたか?

 

飲み物と一つだけ頼んだお菓子がテーブルに到着し、カフェタイムが始まると、緊張はほぐれ、店内の本や雑誌をパラパラめくっては少し会話を交わし…と自然にいつものワタシ達のスタイルになっていった。

昔(ワタシ達が若い頃)、この街ではこんな風に午後のティータイムを過ごす中年夫婦は、そう見かけなかった…ような気もする。

 

こんな田舎町にもカフェが増え、本格コーヒーを気軽にいただけるような時代になった。足を運ぶお客もきっと昔とは違い、老若男女、外国人だって増えた。

カフェにはいろんな人が訪れる。

 

そもそもカフェで過ごす時間には、プロもアマもないのだ。

 

窓辺のこなれ客も、奥の常連女性客も、旅の途中のイマドキ男子も、知ったか夫とやや気合い入り妻の夫婦も…午後のひととき、思い思いの時間を過ごしていた。

 

何に緊張していたのだ、ワタシ。

こなれ感なんて必要ない。ワタシ達はワタシ達らしく、いい時間が過ごせればそれでいいのだ。

 

 

***************

 

 

「こんなところにこんなカフェがあるなんて、知らなかったなあ」

カフェを出て、オットがつぶやいた。先月も似たようなセリフ、聞いたような…。

小さな“新しい”を知ることは、小さな“幸せ”に気付くことでもあるような気がするこの頃のカフェの帰り道。車では入りにくいような路地裏の道を散歩した。

 

 

 

次は「浅煎り・中煎り・深煎り」について、二人で少しだけ予習して出かけますか。